シティプロモーションの事例紹介
奈良県黒滝村の伝統工芸品の技能継承と地域連携の取り組み(後編)
黒滝村 林業建設課
今回の事例紹介は奈良県黒滝村です。 黒滝村は奈良県のへそと呼ばれ、林業で栄えてきた村です。村の約97%が林野であり、森林の村として地域のブランド化に取り組まれています。前編では、この活動の経緯とスギイロの取り組みを中心にお話を伺いました。後編は、森林組合との連携、今後の展開を中心にお話を伺っています。
スギイロが誕生して、事業の成果はいかがでしたか?
(北村さん)スギイロを通じて販路開拓や商品開発を進めるようになって、売上げが2倍強になりました。ものづくりする人、販売していく人、それぞれの役割をもって進め、村としても協力してきた成果だと思います。定期的に職人からの講習を受けながら、今も技能継承の取り組みを続けています。今まではスギイロを中心に進めてきましたが、これからは地域の人と一緒に商品開発するなど、さらに村の人々を巻き込んだ取り組みに変えていきます。
伝統工芸品の技能継承の取り組みで苦労されたことがあれば、教えて頂けますか?
(北村さん)技能継承を進めるにあたり、水組木工の職人に講師をお願いした時のことです。高齢のため体調がすぐれなかったこともあり、その職人からは何度も断られてしまったのです。それでも“なんとかその技術を残したい”との思いを伝え続けて、1年かけてようやく引き受けて頂けました。その後、水組木工の講習会を開き始めると、その方はみるみる元気になっていきました。人に教えると活力が出てくるのですね。教えるために新しい作品にもチャレンジするようになりました。そんな苦労もありましたが、今ではうまく技能承継が進められています。
そんな苦労があったんですね。販路開拓はどのように進めているのですか?
(北村さん)スギイロで販売先を探す以外に、村役場からの紹介やイベントを通じてバイヤーから“こんな商品を作って欲しい”との問い合わせを受けるなど、人とのつながりで販売先が広がってきています。スギイロなら相談にのってくれると、村での認知度も上がってきました。昔は村外の業者から村役場に問い合わせがあっても断っていましたが、今ではスギイロのメンバーを紹介できるようになりました。
ものづくりができるところを紹介できるのは、村としても心強いですね。
(北村さん)ものづくりができる人材がいるのは強いと、周りからも言われています。“職人・作家には個性がある”とよく言われていますので、その個性を生かしつつ、組織として動かしていくことが大切ですね。黒滝村で木工職人として育っていく、そういう人がどんどん増えたら良いと思います。移住するとまではいかなくても、何かあったら黒滝村に来て地域に関わってもらえるような仕組みを作っていきたいと考えています。
村への思いを持った人が増えていくと、村も活気づきますね。
(北村さん)高等専門学校や職業訓練校の卒業生で、“卒業後に木工をやりたくても場所がない”という人がいるそうです。そういう人に使ってもらえる工房を黒滝村に作れたら、と夢を描いています。岐阜県に会員制工房「ツバキラボ」という場所があるのですが、黒滝村にもそういう施設を作りたいです。会員になったらいつでも黒滝村に来て木工ができる、そんな場所です。村に来てもらうことで、後継者がいなかったり空いたままになったりしている木工所や工房などとつなげることもできると考えています。
(酒井さん)林業従事者と木工家が互いの仕事を知らない、つながっていないことも段々とわかってきました。村で森林作業を担当している地域おこし協力隊には、海外で造園をしていた人やイギリスで生まれ育った人、デザインの勉強をしていた人など、面白い経歴のメンバーがそろっています。彼らの力も結集して両者でうまく連携し、さらに都会で暮らす人と山で暮らす人をもつなげていきたいと考えています。
森林組合とはどのような協力をされているのですか?
(北村さん)昨年度は森林組合が主体で使っている交付金があり、集落のネットワークの形成や都市との交流の促進に活用し、イベントや物産展、展示会に出展するなどしました。黒滝村は吉野林業の中心地のひとつで、そこの森林組合はやはり知名度が高く、一緒に活動することでスギイロの組織強化や販路開拓もスムーズに進んでいます。
(酒井さん)木工家がどんな材を必要としているかを組合の作業員に直接伝えることで、ゴミでしかなかった材が生かせる可能性があります。逆に、森林組合のメンバーから教えてもらう木の育て方や森、山での暮らしは、村外で木工品を販売したりワークショップをしたりする際、強力なアピールポイントになります。
森林組合と協力することで活動の場がますます広がっていきますね。
(北村さん)教育現場とのかかわりも生まれています。昨年、奈良教育大学付属中学校がスギイロと連携して環境教育を実施しました。具体的には黒滝村の山や森の見学、森林作業員や住人との交流、グリーンウッドワークのミニ体験などです。
(酒井さん)黒滝中学校の3年生(4人)が昨秋、卒業制作としてベンチを作りたいと相談に来てくれました。卒業式でそのベンチに座り、その後は村に寄付したいというのです。いくつかアイデアスケッチがあったのですが、あまり時間がなかったこともあり、丸太をそのまま生かしたデザインで作ることになりました。
自分たちで作ったベンチに座って卒業式とは、とても良い思い出になりますね。
(酒井さん)どうせなら黒滝らしく「磨き丸太」作りからやってみては、と提案しました。水圧で杉などの丸太の皮をむく風景は、真冬の黒滝でおなじみの風景ですが、もちろん生徒は誰もやったことがありません。生徒たちが自ら森林組合や銘木屋さんにお願いに行ったところ、皆さん快く受け入れてくださり、材料のりっぱな丸太やヒノキの一枚板まで寄付していただきました。
厳しい寒さの中でカッパを着込み、短い時間とはいえ高圧のホースを操ってみて、普段は何気なく見ていた仕事の大変さを実感したようです。大人たちと直接やりとりしたことも含め、深い勉強ができたと先生方も感想を述べておられました。
ほかにも村の子供たちを対象にした取り組みに力をいれており、小学生や学童保育の利用者向けワークショップを開きました。今後は授業の一環として利用していただけるようなプログラムも作っていきたいと考えています。
地域との連携、教育現場との連携など、ますます活動が広がっていきますね。
(酒井さん)村の子供たちは意外と村の産業を知らないようです。通学バスに乗って登校したらずっと学校ですし、放課後に村を歩き回る時間もあまりありません。銘木屋とは何を扱っているのか、木工家がどんな仕事をしているか、実際に見る機会が少ないのです。
スギイロの作業場所はもともと中学校の技術室で、立派な木工機械がたくさんあります。しかし、今では技術の授業時間も減り、機械どころかナイフも使ったことがないという子供が多くなりました。
グリーンウッドワークでは、子供の力や技術でもできるメニューがいろいろあります。子供向けのナイフもありますし、木を切ったり削ったりする方法をきちんと教えれば、ナイフを正しく使ってものを作る経験を積めると思います。今後はこの活動を中心にやっていきたいです。
2023年度はどのようにスギイロの活動を発展させていくのですか?
(北村さん)いわゆる木工は、4月からは森林組合の木工部門という位置づけで活動していきます。本当は自立してやってもらう方が良いのですが、そう簡単には人材の確保ができませんので森林組合に協力してもらうことになりました。森林組合は村の核になる組織ですので、そこで活動した方が組織としてのまとまりと信頼が増すと考えています。
(酒井さん)スギイロは「山・森と街との連携」にいっそう力を入れていきたいです。木工の枠を超えて村内外と緩やかにつながり、山と森、そこで暮らす人々の生活や文化も守る一助となるよう活動内容を進化させていこうと思っています。
最後に、これから木工産業および地域との連携をどのように発展させていくのかについてお話を伺えますでしょうか。
(北村さん)コロナも収束に向かっていきますので、都市との交流人口を増やしていきたいです。黒滝村の入り口にある道の駅までは人が来ますが、その先まではあまり人が来ません。その先まで人を呼び込むために、人と人の交流拠点を作りたいと考えています。わかすぎふれあいセンターを改修したり、小さな木工施設を作ったりして、そこでイベントを行っていきたいです。
ただ、単に建物を作ってもただの箱で終わってしまいますので、そこを活用できる人材の育成やコンテンツを作っていきたいと考えています。例えば、林業、木工従事者が一緒になって森林ガイドをして木に触れるイベントや木工教室を開催したり、教育関係者が森林環境教育に活用してもらったりして、都市部との交流を促進して、村に人を呼び込みたいです。現在、企画政策課で街づくりの構想を考えているところです。
夢は広がりますね。これからの村の発展を期待しております。いろいろとお話をお伺いさせていただき有難う御座いました。